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大阪地方裁判所 昭和42年(借チ)17号 決定

大阪市大淀区中津浜通二丁目八番地

申立人

右代理人

木下肇

大阪府吹田市藤白台四丁目二〇番地の九

相手方

右代理人

山口周吉

主文

一、申立人所有の別紙目録記載の建物を金二六万五、〇〇〇円、別紙目録記載の土地の賃借権を金六八七万五、〇〇〇円で相手方に譲渡する。

二、申立人は相手方から金七一四万円の支払を受けるのと引換に相手方に対し右建物及び土地を引き渡し、かつ建物の所有権移転登記手続をせよ。

三、相手方は申立人から右建物及び土地の引渡を受け、かつ建物の所有権移転登記手続を受けるのと引換に申立人に対し金七一四万円を支払え。

理由

本件は、申立人が借地法第九条の二第一項により件外M不動産株式会社に対し別紙目録記載の土地の賃借権を譲渡することの許可の裁判を求めた(昭和四二年借(チ)第一七号)のに対し、相手方が同条第三項の建物等の優先譲受権を行使し、申立人所有の別紙目録記載の建物及び右賃借権の譲受を求めるというにある。

そこで考えてみるに、本件の前提条件である申立人相手方間の土地賃貸借契約の存在が認められるならば、裁判所は、賃貸人である相手方の建物等の優先譲受の申立に基づき、相手方に対し、申立人所有の右建物及び土地賃借権を譲渡する裁判をなさなければならないところ、本件について調査した資料によると、申立人は、昭和四一年一月一日、相手方から別紙目録記載の土地を、非堅固な建物の所有を目的として、存続期間二〇年、借賃一カ月金一万七、一六〇円の約定で借り受け、その地上に別紙目録記載建物を所有していること、相手方は、右賃貸借契約の締結に際し、申立人から敷金として金一二〇万円の交付を受けたことが認められる。

そこで、つぎに相手方に譲渡すべき建物の対価及び賃貸人である相手方において賃借権の譲受をする場合の賃借権の対価について検討する。

資料によれば、別紙目録記載の建物はそのうち主たる建物である工場木造ルーフイング平家建一三三・六一平方米のみが実際上使用に耐えるような現況であり、その価額について申立人は約金五〇万円と述べ、相手方は約金二四万円と主張する程度のもので、申立人が援用する鑑定書(大和銀行本店不動産部の鑑定、甲四号証)によつてもその額が金三六万六、〇〇円と評価されているに過ぎないこと、別紙目録記載の土地は京阪神急行電鉄中津駅の北北東約一粁、地下鉄一号線中津駅の北北西約一粁に所在し、近隣には北東に世界長ゴルフセンターが所在するほか、工場、住宅、事務所及び共同住宅等が混在し、都市計画上は準工業地域に属すること、その土地の更地価額については、申立人は三・三平方米当り金一二万円と述べ、相手方は同金六万円と述べるが、前記鑑定書によれば右土地の建付地価格(右鑑定書では自用の建物の存在する敷地の価額を指している)として金一、七八〇万四、〇〇〇円(三・三平方米当り金一二万五、〇〇〇円)と評価し、借地権価格を建付地価格の五割とする評価がなされていることが認められる。

ところで、本件についての鑑定委員会の意見は、別紙目録記載の建物の価額について、復成式評価法により前記主たる建物の復成現価を金三七万八、九四〇円とし、それに物理的、機能的、経済的減価を三割とみて金二六万五、二五八円と判定し、別紙目録記載の土地の賃借権価額について、その土地の更地価額を金一、七一八万八、〇〇〇円(三・三平方米当り金一二万円)と評価し、その五割を借地権価額と考えて金八五九万四、四〇〇円と判定している。

これら建物の価額及び土地賃借権の価額についての鑑定委員会の意見は、その意見の基礎となつた事実関係、殊に建物及び土地の価額評価がほぼ前認定の事実に基づいてなされていることに鑑み、その意見を採用するのが相当であると認め、建物の対価を金二六万五、〇〇〇円と定めることとし、賃貸人である相手方が本件土地の賃借権を優先して譲受ける場合の対価としては、従前の賃貸借契約における賃貸人・賃借人間の利害の関係、賃貸人が早期に土地の回復を図りうる利益等を考慮して判断すべきところ、本件においては、前認定の借賃がその更地価額を投下資本と考えての利廻り計算からみれば低廉に過ぎること(このことは右対価の決定に当つては賃貸人に有利に斟酌すべきである)、本件裁判による借地権譲受の対価とは別箇に前認定の敷金一二〇万円の返還が約束されていること(敷金の授受がなされている借地権については、その敷金を伴つた借地権が賃貸人に移転し、その後混同によつて借地権が消滅すると考え、敷金を伴つた借地権の価額を考えるべきで、分箇に敷金返還の問題は起らないとの見解もありうるが、本件では当事者が別箇に返還を約している)、賃借権の残存期間が長期であること等諸般の事情を考慮すれば、賃貸人である相手方が本件土地の賃借権を譲受ける場合の対価は、前記鑑定委員会の意見に基づく借地権価額からその二割に相当する金額を差引いた価額をもつて相当であると考え、これを金六八七万五、〇〇〇円と定める。

なお、申立人の相手方に対する建物及び賃借土地の引渡並びに建物の所有権移転登記義務と、相手方の申立人に対する建物の対価金二六万五、〇〇〇円及び土地賃借権の対価金六八七万五、〇〇〇円の合計金七一四万円の支払義務とを同時に履行すべきことを命ずることとする。

よつて、主文のとおり決定する。(志水義文)

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